ある意味ドキュメンタリー
劔岳 点の記
2009年/監督:木村大作
明治39年、陸軍参謀本部陸地測量部によって日本地図は完成されつつあったが、あまりの険しさで未踏峰とされ、測量できていなかったという剱岳。この日本地図最後の空白地帯を埋めるために信念と勇気をもって困難な山岳測量に取り組んだ男たちを描いた壮大な物語。
が、これは物語というよりドキュメンタリーではないか。
公開当時、NHK FMのラジオ深夜便の番組に監督の木村大作氏が出演しており、声でかく興奮ぎみに熱きキャラを放出していた。あまりにも壮絶な撮影現場の話、可笑しかった。
もともと日本映画の数作品の撮影監督を手掛けるキャメラマンだったこの監督は、新人だった頃に黒沢明監督の映画にも参加し、“本物”を撮ることに執着しまくる現場を刷り込まれている。
“本物”を撮るために、俳優は本当に撮影現場に登って行く。快晴待ち、嵐待ち、季節待ち、雲海待ち・・・自然と山の状態が大優先でそれに合わせて俳優含むスタッフは、劔岳に呼び出される。そして登る。そのシーンを撮るために俳優は山際の雪がせり出した、雪の下に地面があんだかないんだかわからない所に立たされ、遠くからカメラを回す監督からもっと先まで行けと指示される。
壮絶な映画を撮るために、スタッフ一同も壮絶な時間を辿っている。
実際に本編を観たらば、あまりにも本物過ぎて実際壮絶であろう部分はもうサラッと、その壮絶な所はもうちょっとじっくり撮って感動を呼ぶシーンとなるのではないかと思うところはサラーッと過ぎる。或いは、いよいよクライマックスの壮絶なドラマがこれから!というところで「そこないんかい!」とか。
逆にそのドラマもへったくれもないところが“本物”を撮るがための壮絶さを思わせる。
私は完全にこの映画を撮っている現場のドキュメンタリーを観ている目線になっており、ああそうだね、そんな危険なところで俳優が格好つけて迫真の演技をしたり、緊張のどアップを撮影したりどころじゃないよね。などと優しさに溢れて見守ってしまう。
やはりカメラマンである監督、ドラマなんてどうでもよいのだろう。とにかく、この劔岳の壮大な画を記録したかったのだろう。この素晴らしい大自然の中に、佇まいも凛々しい浅野忠信や中村トオルが、点のようになって歩いている。ありえない美しさ・・・だから許せる。
観終わって、劔岳には決して登りたくないと思った。