花粉にまみれるクマバチ
先月、斑尾高原にある絵本美術館に行ったときのこと。見てきたのはサラ・ファネリという絵本作家の原画展である。コラージュにイラストを書き加えた作風で、そのイラストのゆるいタッチがよい味を醸し出していた。
満足して美術館を出ようとしたところ、入口のところにハマナスの赤い花が生けてあって、その花の中にクマバチがおった。虫が苦手な私としては一瞬ひるんだものだが、その花と蜂の絵のような光景に目を奪われた。
横から見ると透き通った花びらに蜂がブブブブやっているのが透けて見えている。上から見るとぬいぐるみのようなクマバチが黄色いモクモクした花粉にまみれてブブブブやっている。犬でいうと草っ原に放ったときにやる意味不明なゴロンゴロン「背中かゆいのか?」と疑問を投げかけたくなる。人間でいうと札束風呂に入って札束を浴びるフジコちゃんのような光景‥‥楽しそうだ。かわいい‥‥。でも怖い。でもかわいい。
自転車に乗っていると、あの真っ黒い毛に覆われた風貌で顔にぶち当たってくるような恐ろしいハチをかわいいと思うなんて私もずいぶんまるくなったものだ。
クマバチのことを私はクマンバチと呼んでいた。たぶん親の影響でそう呼んでいたと思うのだが、「熊みたいだから」というのはなんとなくわかった。しかしこの「クマ」と「ハチ」の間の「ン」はいったい何なのだ。そう子供心に疑問を抱いていた。「クマバチ」とあっさり言うより「クマンバチ」と言った方が怪獣っぽい響きになり恐ろしさが増す。‥‥勢いか。勢い余って「クマ」と「ハチ」の間に「ン」が入った。これは有力な説ではないか、そうに違いない。恐ろしさを表現するのに勢いをつけたら「ン」が入った。
恐ろしさから離れられない‥‥
調べてみるとどうも「クマンバチ」は「クマバチ」と別物で「スズメバチ」の別名らしい。「熊」というイメージは同様のようだ。それにしてもやはりこの「ン」はいったい何なのだ。余計に疑問が残る。