2005.11.03
ある写真家の「箱の時間」
弟の通う大学に立ち寄り、宮本隆司という写真家の写真展を見る。学校は休日だから人気がない。学校全体が美術館のような佇まいで、建物のまわりに浅く水が張ってあり(長野の東山魁夷館なような感じ)青い空が映っていて美しい。
ギャラリーに入ると学芸員に扮する弟が部屋の隅にちんまりと座っていた。正面には3m四方もの箱の展開図型の巨大なピンホール写真が掛けられ、フロアの中央には人が入れるくらいのベニヤ板でできた箱が置かれていた。学芸員の説明によると、この箱は巨大なピンホールカメラであり、宮本氏自らがこの箱の中に入り撮影した写真がこちらなのです。と言う。だから展開図の形をした写真の一角には壁にへばりついて息を潜める、というか酸欠に耐えしのぐ本人の陰が写っているのであった。円形に深く青くぼんやりと写る多摩川の向こうに広がる東京の風景がものすごく神秘的で、またこの箱の中全体にこの外の世界の何分間かの映像が映し出されていたのだと思うと更に輪を掛けて神秘的であった。親父は学芸員に「これはいくらで売っているのだ」とすかさず値段を聞いていた。
更に奥に進むとギャラリーの奥には段ボール箱がぎっしりと積まれ、壁が作られていた。壁には人が腰をかがめて通れるくらいの穴が設けられており、学芸員に促されてその穴をくぐる。その向こうの足下にはホームレスの家のモノクロ写真が展示されていた。最小単位の建造物として撮影されたいくつもの家は、限られた、或いは無限の資材でもって工夫を凝らして作られており興味深い。親父もその最小建造物の構造にかなり興味を示し、食い入るように見ているのであった。