深夜2時から渋皮煮を作るか普通
1ヶ月も前のことだが、仕事がとても忙しかった最中に実家から採れたての栗が届けられた。母は茹でてスプーンでほじくって食べれと言って渡してきたのだが、せっかくもらったこの栗を荒々しくほじくって食べるなんてイヤだと思う。なんとか仕事の合間に渋皮煮にしてやろうとしばらく放置しておいた。数日後、気になって栗を袋から出して見てみたら、うっすらとカビが発生しかけているのを目撃する。ヤバイ‥‥これでは美味しい美味しい渋皮煮を食べることに思いを馳せていた私の夢が絶たれてしまう。ていうかほじくって食べることさえできなくなる。これが深夜2時のことであった。
慌てて昨年インターネットで入手した渋皮煮のレシピの入っているファイルを出してきて、最初のページを見てみる。「鬼皮をむいて、重曹を入れた水に浸して、アクをこまめに取り除きながら15分間煮る」簡単に書いてあるけど、渋皮煮で最もたいへんな作業は鬼皮をむくことなんだぜ。鬼皮をむく試練さえ乗り越えれば後は楽勝。アタシは騙されない。と少し得意気になって鬼皮をむき始める。
こんな静かな夜にはジャズだわね、とジョージ・シアリングとメル・トーメの『AN ELEGANT EVENING』を聴きながら、素敵な鬼皮むきタイム。ときおり固い鬼皮にツルっと包丁を滑らせ親指に刃が食い込む。その都度恐怖の悲鳴をあげるが、刃には栗の甘味でベトベトした渋皮がうっすら張り付いているから意外と無傷だ。無傷なのに瞬間的にうろたえている自分がちょっと恥ずかしい。
鬼皮をむき終えて小1時間、後は重曹で煮るだけでしょ。とページをめくって次の工程を確認する。「15分間煮たら煮汁を捨てて水に浸し、冷めたら1個ずつ取り出しタワシでやさしくこすり渋皮を取り除く。‥‥それを3回繰り返し、完全に渋皮を取り除くまでやる。その後シロップを作ってそれに漬ける。」‥‥工程は3ページに及んでいた。
栗をシロップに漬けて冷蔵庫に仕舞い終わった時、外は白々と明るくなっているのであった。